2009年05月10日

+BOOK+ エル・スール (アデライダ ガルシア=モラレス著)

 ヴィクトル・エリセ監督の「エル・スール」の原作本で、しかも、未完成で終わった後半部分の話があるので、興味深く読んだ。原作者はエリセ監督の元奥さんだったアデライダ ガルシア=モラレス女史。

 本の文体は主人公の女の子の静かな口調で語られるという、映画と同じ雰囲気でまるで映画をもう一度観ているような感覚さえあった。

 ただ、映画と本の違うところは、少女が家族から隠れてベッドの下にもぐりこむところなど。映画では、彼女がどこにいるか知っている父が、上の階にある自分の部屋の床をコツコツと少女に聞こえるようにつえで叩いて無言の非難を少女に与え、少女はベッドの下で泣き出す..というシーンだったが、本ではそういうシーンはないのだった。(他にもつけくわえられたシーンがある。)

 この部分はエリセ監督が映画用につくったみたいだけれど、原作にあるよりも、さらに感性がとぎすまされて、ある意味、気難しささえ感じるような厳しさと完成度を感じさせる。エリセ監督とアデライダ ガルシア=モラレスの違いをはっきり観た感じがした。私は映画の方が秀作だと思う。

 そして、「みつばちのささやき」でも感じましたが、家族や外界の人に心開かぬ父・・というやっぱり、ここでも「自閉」を感じるんですよね。スペインという国は何かもっとおおっぴらな印象があるだけに、エリセ監督の作品が本当に自国に受け入れられているのか心配になってきてしまう。(笑)

 父の死後、「南へ」向かった少女が見聞きした真実・・これは、本を読んでのお楽しみですが、こういう事情は、よくある話でけして珍しい事ではない。こういういった事情を抱えながら生きている人は多くはないのしても、いるだろうから。でも、それを全て受け入れ今の自分を生きる人もあれば、自殺まで追い込まれる人もいるという..ところでしょうか。それを知った少女が、父という人物を深く理解しえたという心の軌跡と、失った者への切なさややりきれなさ。

 私はなんといっても、少女がアンダルシアに着いた途端に、いままで死んで冷たくなっていたさまざまな事物が、一挙に生き返るような気がしました。特に死んだ父が使っていた部屋の中庭の泉から水が流れる、その音。。そこに生命のさまざまなものが清められ流されて行くような感覚を持った。

 スペインは中部や北の方は、カトリック教というのもあり、結構、女性などは閉鎖的で家の外にほとんど出るようなことがなく、アデライダ ガルシア=モラレスも、そういった環境で育ったという。近年、スペイン女性の立場もだいぶ上がってきて著名な女流作家なども出て来たらしいのですが、なかなかフランスのようにはいかないようです。

 そんな中で、「エル・スール」という自由と暖かい気候と太陽を感じさせる土地にアデライダ ガルシア=モラレスも傾倒したというのは、そこに「生気」を感じたんだろうと思う。私はとても共感できる。

 あと、ガルシア・マルケスの「百年の孤独」の前後では文学の世界って変わったんだって。アデライダ ガルシア=モラレスもその影響をだいぶ受けているらしい。私は「百年の孤独」を一度読んだことがあるのですが、もう一度、読みたくなってきてしまいました。(笑)

投稿者 nao : 00:00 | トラックバック (0) □102.BOOK(小説その他)□

このエントリーのトラックバックURL

http://voldenuit.org/cgi/mt/mt-tb.cgi/316